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2008年04月03日

かわいいおばあちゃんめぐって大混乱! 狂犬病予防法ってナニ?

 被告人は、かわいらしいおばあちゃんで、飼い犬の登録と狂犬病予防接種をしていなかった狂犬病予防法違反の罪と、その犬が近所の人にかみついてしまった過失傷害の罪に、それぞれ問われています。どちらの罪名も非常に珍しいものです。

 どういうわけか、検察側と弁護側が対立しており、激しい舌戦が繰り広げられました。よく聞いてみると、信じられない内容で、「なんじゃこりゃ〜!? 何でこんな裁判やってるの?」と驚きました。もう、とにかく、こんな裁判を見るのは初めてで、「信じられない」という言葉しか浮かびませんでした。


【注意事項】
 この記事は、私が裁判傍聴で必死こいて書き殴ったメモを元に、なんとか記憶を辿って書いたものです。もしかしたら、実際に裁判で起こったことと、全然違うかもしれません。
 また、私に法律の知識はありません。
 偏った思いこみや思想が文章に紛れ込んでいるかもしれません。極力避けるように努力します。ご了承下さい。
 この記事が事件の真実を言い当てることなどございません。
 無いとは思いますが、無断転載はご遠慮下さい。引用は法律を守ってご自由にどうぞ。
 リンクはご自由にどうぞ。ただし、画像等への直リンクはおやめ下さい。
 登場人物のイニシャルは本名と無関係です。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
《かわいいおばあちゃんめぐって大混乱! 狂犬病予防法ってナニ?》
【狂犬病予防法違反】【過失傷害】『審理』
名古屋簡易裁判所403号法廷
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆★登場人物★☆
Nさん(被告人。在宅。60〜70代ぐらいの女性。小柄)
弁護人(40代ぐらいの女性。小柄。陽気な印象)
検察官(50代ぐらいの男性。長身。声が高い)
裁判官(40代ぐらいの男性。四角い顔。キッチリ七三分け)
Xさん(40代ぐらいの女性。Nさんの親族)
Yさん(50代ぐらいの男性。Nさんの主治医。外科の開業医)
Aさん(被害者)
クッキー(Nさんの飼い犬の正式名称………の仮名)
ポチ(Nさんが飼い犬を呼ぶ時に使うあだ名………の仮名)


 この事件を教えてくださった今井亮一さんのご好意により、許可をいただいた範囲内で、経緯について記します。

 なお、この事件について(というか狂犬病予防法違反という罪名について)、今井亮一さんはご著書で軽く触れておられます。51ページの「レアな罪名」というコラムです。

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「裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録」(今井亮一・角川ONEテーマ21)


 昨年の9月、名古屋高等裁判所の中津川オービス控訴審(判決)を傍聴に行ったとき、交通ジャーナリストの今井亮一さんとお会いしました。今井さんとは、以前から時々メールで交流があり、オービス控訴審の予定も教えていただいたのです。
 その日、簡易裁判所の開廷表に、「狂犬病予防法違反、過失傷害」という聞いたことのない罪名を見つけました。残念ながら、すでに終了予定時刻を過ぎていました。珍しい罪名を見逃して後悔したものの、自力でどうすることもできませんので、あきらめて忘れようと思っていました。

 なんと、今井さんはその裁判を傍聴されたとのことで、驚くべき内容を教えてくださいました。

 被告人はおばあちゃんで、検察側請求の書証、昭和63年作成の判定書では、精神年齢6歳6か月、知能指数44だったというのです。
 おばあちゃんの飼い犬が、登録と狂犬病予防接種を受けていなかった(狂犬病予防法違反)、近所の人にかみついてケガを負わせてしまった(過失傷害)、という事件だそうです。

 被告人質問が行われたものの、
「わからん」「わからなぁい」「おぼえとらぁん」「わすれたぁ」の連続
だったとか。

 今井さんは、
6歳6カ月は、子どもなら可愛い盛り。おばあちゃんも可愛いね
という印象を受けたそうです。

 また、
こんなものが、なぜ、立件、送致、起訴されてしまったのか
と疑問を呈しておられました。

 私は不思議に思いました。
 おそらく被告人は、警察署や検察庁でも、「わからなぁい」と返事していたはずです。自白はとれたのでしょうか…? どうして起訴しようと思ったのでしょうか…? 責任能力云々で裁判がややこしくなることは目に見えているのに。

 全ての事件が裁判沙汰になるわけではありません。詳しくは以下のリンクを参照して下さい。分かりやすい説明だと思います。

《刑事事件フローチャート》法務省刑事局より
http://www.moj.go.jp/KEIJI/keiji09.html
《平成18年版 犯罪白書〜刑事政策の新たな潮流〜 第2編 犯罪者の処遇 第1章 概要》より
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/52/nfm/n_52_2_2_1_0_0.html

 なお、狂犬病予防法違反の公判がどのぐらい珍しいのかについては、「裁判中毒」を参照されるか、検察統計でお調べください。

《検察統計》政府統計の総合窓口(e-Stat)より
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001018044

 本件は、被告人と罪名から考えて、滅多に見かけない事件です。
 では、どうして微罪処分や不起訴で終わらなかったのでしょうか。

 まずは法令を調べてみました。
(過失傷害)
第二百九条  過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2  前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)
 なるほど。公訴を提起(起訴)するには告訴が必要なのですね。
 ということは、被害者が告訴した、つまり被害者がとてつもなく怒っている可能性はあります。それで、被害者の気持ちを大切にしようと、検察庁が動いたとか?
 うーん、どうなんでしょう…。本人たちで示談したらすむような気もします。

 ということは犬が狂犬病にかかっていたとか?
 いや、抗菌大国ニッポンでそんなことがあったら、大ニュースになっているはずです。
 かえって謎が深まってしまいました…。

 狂犬病予防法も見ておきます。
第四条  犬の所有者は、犬を取得した日(生後九十日以内の犬を取得した場合にあつては、生後九十日を経過した日)から三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、その犬の所在地を管轄する市町村長(特別区にあつては、区長。以下同じ。)に犬の登録を申請しなければならない。ただし、この条の規定により登録を受けた犬については、この限りでない。

第五条  犬の所有者(所有者以外の者が管理する場合には、その者。以下同じ。)は、その犬について、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならない。

第二十七条  次の各号の一に該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。
一  第四条の規定に違反して犬(第二条第二項の規定により準用した場合における動物を含む。以下この条において同じ。)の登録の申請をせず、鑑札を犬に着けず、又は届出をしなかつた者
二  第五条の規定に違反して犬に予防注射を受けさせず、又は注射済票を着けなかつた者

狂犬病予防法(昭和二十五年八月二十六日法律第二百四十七号)

 裁判の中では「生後60日」と言ってました。理由は分かりません。調べるところが違っているのか、聞き間違えたのか…。これは未だに分かっておりません。

 さて、3週間ほど経ち、次の公判の期日となりました。この日は弁護人立証で、証人尋問が行われることになりました。Xさんは外で待機するように指示されました。先に尋問を受けるYさんの証言を聞いてはいけないようです。時々見かける光景です。

[弁護人立証]
Y証人、X証人

 弁護人からの主尋問から始まります。

(略: Yさんの経歴に関する確認。外科医であること。父親の跡を継いだこと等)
弁護人:「被告人をご存知ですか?」
Yさん:「もちろん知っております」
弁護人:「初めて会ったのはいつですか?」
Yさん:「だいたい20年ぐらい前…(略: 細かい話)」
弁護人:「当時、治療したことはありましたか?」
Yさん:「ありますが、ほとんど父(当時の院長)が診ていました」
弁護人:「見てNさんだと分かる程度だったのですか?」
Yさん:「特徴ありますから」
弁護人:「どんな特徴ですか?」
Yさん:「ところかまわず大きな声で話す、人の話を理解できない」
弁護人:「通院頻度はどのぐらいでしたか?」
Yさん:「父が診てたころは定かではないですが、週1〜2回程度だろうと思います。最近は1日おきです」
弁護人:「最近というのは、あなたが院長になってからですか?」
Yさん:「はい」
弁護人:「被告人はどこが悪いのですか?」
Yさん:「腰骨の変形が激しくて、腰痛、下肢痺れ、腕の神経痛です」
弁護人:「通院した時に他の患者と話すことがありますか?」
Yさん:「あります」
弁護人:「その声が大きいのですか?」
Yさん:「その通りです」
弁護人:「被告人は他の患者さんとどんな話をしていますか?」
Yさん:「『天気いいね』とか、『そのカバンいいね』とか」
弁護人:「日常会話はできていたということですか?」
Yさん:「本当の日常的な会話だけですけどね」
弁護人:「指定した日に来ることはできるのですか?」
Yさん:「実はできなくて、今日もリハビリの予約してたけど、すっぽかしてしまって、困っておるところです。時間の概念が分からないみたいで、数字も読めない。口頭で言ってます。『明日の朝イチに来てね』とか」
弁護人:「日にちは分かりますか?」
Yさん:「明日は分かるけど、明後日は分からない。ましてや『来週の火曜日』は分からない」
弁護人:「今日は何日とは分かりますか?」
Yさん:「うーーーん、『Nちゃんの誕生日は?』と尋ねたら、『5日』と答えたんですが、正解ではないんです。今日が何日かは分からないです」
弁護人:「薬を飲むのは可能ですか?」
Yさん:「薬局がやっているので私には分からないです」
弁護人:「間違って一度にたくさん飲むと大変だと思うけど、何か配慮はしてますか?」
Yさん:「全部飲んでも死なない程度しか出しません」
弁護人:「薬の管理能力がないと考えていますか?」
Yさん:「そうです」
弁護人:「書いていただいた文書『知能障害の程度』を示します」

検察官:「異議あり! 証拠として採用されていない文書です。弁護人は示す許可を取っておりません」
裁判官:「………………………………………………………………示すぐらいならいいんじゃないですか?」

弁護人:「外科の先生としては専門外かと思うのですが?」
Yさん:「私も全ての科を通っているので基礎知識は持っています」
弁護人:「医学的知見から書いたのですか?」
Yさん:「私は事実を書いただけです。精神科医の資格はないので医学的なことまでは私は書けないので」
弁護人:「甲22号証を示します。判定書ですが、昭和63年の判定では知能指数44、精神年齢6歳6月ぐらい、障害の程度は中程度だったと。現在は、平成19年の判定で重度に変更になりまして、知能指数31と、少し下がっている状況です。現在のNさんの状況からして不自然なところはありますか?」
Yさん:「その通りだと思いますけどね。(甲22号証を指しながら)前は6歳、今は4歳ですね。その通りだと思います」
弁護人:「『漢字の読み書き全くできない』とあるが、病院では書いたりしてないですか?」
Yさん:「カルテは遥か昔まであるので分からないです」
弁護人:「最近あるかないかだけで結構です」
Yさん:「ないです」
弁護人:「他に何かありませんか? 漢字に関することで」
Yさん:「Nちゃんは人に何かしてもらったら物で返すというクセがありまして、私にもするんです。やめてと言っても聞かないです。それで、『一』と書いて『はじめ』と読むお茶をペットボトルで買ってきてもらおうと思ったけど、漢字の『一』が分からない。横棒一本の『一』と書いてあるお茶があると話してやっと分かる状態です」
弁護人:「お金を出して買うことができるのですか?」
Yさん:「紙のお金、丸いお金、穴の空いたお金があることは分かります」
弁護人:「買い物は市場の方が補佐して下さっているそうですね。」
Yさん:「サイフから一番大きいお金を出して買うようにしているようです。時々、市場の方が、『おつりが違ってた』と、追い掛けてきたことがあります」
弁護人:「外科の会計はどうしているのですか?」
Yさん:「生活保護なので払ったことはないです」
弁護人:「恩を物で返すことがあるとおっしゃいましたが、先生のところにお花を持ってきてくれるそうですね」
Yさん:「はい。週に一度、父に良くしてもらったという気持ちがあるようで、必ず花を買ってきてくれます」
弁護人:「他の人にも何かしたことはありますか?」
Yさん:「足の悪い人に傘をさしてあげていました」
弁護人:「日常生活はできるのでしょうか?」
Yさん:「何とかできていると思います。かなり痛いとは思いますが」
弁護人:「今回の事件が起きて何か変わったことはありませんでしたか?」
Yさん:「全く変わりないです」
弁護人:「大変なことしてしまったとは言ってませんでしたか?」
Yさん:「『うるさいオヤジに捕まった』と言ってました」
弁護人:「犬が噛みついてしまったのは被害者が悪いと思っているようでしたか?」
Yさん:「分かりません」
弁護人:「犬が噛みついたと理解しているようでしたか?」
Yさん:「分かりません」
弁護人:「逆に、被害者が犬を叩いたと、被害的に思っていませんでしたか?」
Yさん:「ちょっと分かりません」
弁護人:「この裁判については何か言ってませんか?」
Yさん:「何かみんなが集まって、ゴチャゴチャ訊かれたということは、分かっているみたいです」
弁護人:「生後60日の犬を飼うというのは…」

検察官:「(急に大声で)異議! 意見を求めた質問です」

裁判官:「弁護人、質問変えてもらえますか?」

 私は、検察官の大声に驚いて、弁護人の質問を最後までメモすることができませんでした。
 弁護人は、とても困った様子で、しばらく次の質問を出せませんでした。資料を何度も確認して、ようやく次の質問に移りました。

弁護人:「彼女の通院は、『明日、明後日』といった指示でしたか?」
Yさん:「はい」
弁護人:「裁判の内容が分からなかったということはあったのですか?」
Yさん:「はい」
弁護人:「終わります」


 ビックリしました。
 自分の誕生日を間違えたのと、「一」というお茶が分からないエピソードは、とてもショッキングでした。時間、日付、曜日が分からないのですから、犬の生後何日や年一回の予防接種は、被告人Nさんには困難でしょう。
 弁護人は、心神喪失での無罪か、心神耗弱による法律上の減軽を狙っているようです。
 過失傷害については、「腰痛、下肢痺れ、腕の神経痛」によって、情状酌量を求めているのだと思います。
 Nさんは、大変な傷害や持病を抱えつつも、周りの人々から暖かく見守られて、自分なりに楽しく暮らしているようです。

 もちろん検察官は反対尋問を行いました。

検察官:「甲22号証判定書を示します。さきほど4歳と書いてあるとおっしゃいましたけど…」

弁護人:「異議あり! 刑事責任能力とは言えません」

検察官:「こちらに5歳8か月と書いてあるのが分かりますよね?」
Yさん:「はい」


 またまたビックリしました。「4歳じゃない、5歳8か月だ」という訂正に、どのぐらいの意味があるのかと思いました。
 もちろん検察官は無意味に訂正したわけではなかったのです。その理由は次回の公判になって分かりました。
 ひとまず証人尋問の続きをどうぞ。

検察官:「被告人の買い物のやり方については、市場の人から聞いた話ですか?」
Yさん:「はい」
検察官:「では実際に被告人が買い物している様子を見たわけではないのですか?」
Yさん:「はい」
検察官:「平成18年*月*日、散歩中の男性を噛んだ事件についてお尋ねしますが、被害者はAさんでしたか?」
Yさん:「名前は忘れました」
検察官:「その日、犬に噛まれたという男性を診察したことは覚えていますか?」
Yさん:「はい」
検察官:「その男性は犬に噛まれた状況をどのように話してましたか?」
Yさん:「放ってた犬がいたので、自分の犬に向かってきたので、かばおうとしたら、足に噛みつきやがった」
検察官:「『放ってた』とは具体的にどういう意味ですか?」
Yさん:「手綱を放していた」
検察官:「診断書を書いてもらう時に何か言ってましたか?」
Yさん:「何も聞いてないです」
検察官:「あなたは、本件証拠になる被害者の診断書を書かれて、被告人の証人としても出廷されて、微妙な立場ですが、どうして被告人のために証言しようと思ったのですか?」
Yさん:「最初は状況がよく分からなくて、後でNちゃんの犬だと聞いて、『ああNちゃんかあ、Nちゃんなら仕方ないなあ』と思いました。でも、Aさんはものすごく怒っていました」
検察官:「被告人が加害者だと知ったのはいつ頃でしたか?」
Yさん:「Aさんが治療に来て、その日の夜か翌日に、Nちゃんがしょんぼりしていたので、尋ねると『うるさいオヤジに捕まった』と」
検察官:「先生は外科医で、精神科は専門外ですね?」
Yさん:「はい」
検察官:「被告人は一人で通院していたのですか?」
Yさん:「はい」
検察官:「被告人の病院内での問題行動はどんなものでしたか?」
Yさん:「ただうるさいだけで、小声でしゃべるとか、他の人に配慮して話すとかはないです」
検察官:「他の患者とコンタクトできてるんですか?」
Yさん:「まともに話を聞いてるわけではないです。ごくごく簡単な会話です」
検察官:「先生からの指示は理解できてますか?」
Yさん:「ごくごく簡単な指示ですけど」
検察官:「犬を飼ってるのは知ってましたか?」
Yさん:「一度連れてきて、病院の前にしばっていたのを叱ったことがあります」
検察官:「その後は同じことがありましたか?」
Yさん:「いちいち外まで見ませんからねえ」
検察官:「今回先生が書かれた『証明書』ですが、これは診断書ではないんですか?」(主尋問で出てきた『知能障害の程度』だと思われます)
Yさん:「私は、専門ではないので診断はできませんので、証明書という形で書かせていただきました」
検察官:「業務文書ではないんですか?」
Yさん:「うーん、それは分からない。証明書も結構書きますんで。専門外のことに関しては、証明書という形で、頼まれたら書きます。………法的な話だから分からないです」
検察官:「被告人は薬は飲んでるんですか?」
Yさん:「『薬ある?』と訊くと、あるかないか、少しは言ってくれます」
検察官:「終わります」


 検察官が、「では実際に被告人が買い物している様子を見たわけではないのですか?」と確認したのは、又聞きの証言は証拠にならないからだと考えられます。被告人の刑事責任能力がないという証拠を減らしたいのでしょう。

 検察官が、証明書が業務文書かどうかしつこく尋ねたのは、証拠採用されないかどうか、確認したかったからだと思います。通常の業務で書かれた文書であったら、たとえ検察官が不同意しても、証拠採用できるようです。
第三百二十三条  前三条に掲げる書面以外の書面は、次に掲げるものに限り、これを証拠とすることができる。
一  戸籍謄本、公正証書謄本その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面
二  商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面
三  前二号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面

刑事訴訟法(昭和二十三年七月十日法律第百三十一号)

 ですから検察官としては、できれば業務文書ではないほうが、ありがたいのでしょう。

 これらのやりとりから、この裁判が、相当に細かい部分を激しく争っている様子がうかがえます。

 続いて、被告人Nさんの親族、Xさんの証人尋問です。弁護人の主尋問から始まります。

弁護人:「あなたとNさんの関係を教えて下さい」
Xさん:「母の妹にあたりますので、おばです」
弁護人:「あなたのお母様の名前を教えて下さい」
Xさん:「■■■■と申します」
弁護人:「前回、被告人は、■■■■さんが分からなかったんですけど、本当に分かっていないのですか?」
Xさん:「いつも『姉ちゃん』『■■ちゃん』と呼んでいるんで」
弁護人:「あなたと被告人とは別々に暮らしているのですか?」
Xさん:「はい」
弁護人:「近所ですか?」
Xさん:「おばの足で5分ぐらいです」
弁護人:「他にNさんの親族はいますか?」
Xさん:「(略: 数名いるという旨)」
弁護人:「以前は、あなたとNさん、同居していたそうですね?」
Xさん:「おばが住んでいる家が私の生まれた家なので。記憶は定かではないですけど」
弁護人:「誰と同居していたのですか?」
Xさん:「(略: 一人一人説明する)」
弁護人:「あなたは小さい頃からNさんのこと知っていたのですね?」
Xさん:「はい」

(略: どのぐらい前かという確認。よく分かりませんでした)

弁護人:「検察官の証拠によると、(略: Nさんの経歴について説明)、飲食店で働いたと書いてありますね?」
Xさん:「勤務はしてないです。母が飲食店を始めたので手伝いをしていました」
弁護人:「給料はもらっていましたか?」
Xさん:「出てないです」
弁護人:「それ以外にもNさんが働いたのを見たことはありますか?」
Xさん:「ないです」
弁護人:「Nさんはいつから生活保護を受けていますか?」
Xさん:「分かりません」
弁護人:「証人以外の親族が援助することはできますか?」
Xさん:「(略: 事情があって難しい旨)」
弁護人:「あなたが援助するのですか?」
Xさん:「何かあったら、助けられるなら助けたいと思っています」
弁護人:「甲22号証を示します。昭和63年当時の判定書ですが、『姉■■■■死亡』『姉の夫■■■■死亡』、これがあなたの両親ですか?」
Xさん:「はい。あっ! 字が違う!」

(略: 別の親族について。現在は交流がない旨)

弁護人:「昭和63年当時から『犬と遊ぶ』と書いてありますね?」
Xさん:「ウチは犬がいないことはなかったです。父が飼っていた犬です」
弁護人:「地図を示したいのですが」

検察官:「異議あり! 証拠の中で示して下さい」

 弁護人は、どうやらYahoo!地図を印刷して、証人に示そうとしていたようです。しかし、証拠請求されていなかったためなのか、検察官が猛烈に異議を申し立てました。
 しばらくもめた後、弁護人はあきらめて、Xさんに地図を書かせることにしました。

弁護人:「では白い紙をください。被告人とあなたの家の位置関係を知りたいのですが、書いていただけますか?」

(略)

弁護人:「角を一回曲がっただけの、いわゆる、スープの冷めない距離、ですね。あなたの両親が生きてらっしゃった頃から、食事をして、お風呂に入って、ほとんど証人の家で生活していたのですね?」
Xさん:「ほとんど寝に帰るだけです」
弁護人:「被告人としては姉の家の犬という感覚でしょうか?」
Xさん:「そうですね」
弁護人:「現在は、あなたの家に、ご飯を食べに行ってますね?」
Xさん:「ご飯を食べに来ますがすぐに帰ります」
弁護人:「Nさんは食事を作れないのですか?」
Xさん:「怖いですね。火を使うのは」
弁護人:「火を使えないとなると、お風呂はどうしているのですか?」
Xさん:「銭湯に行ってます」
弁護人:「毎日ですか?」
Xさん:「経済的に厳しいのでチケットがあるだけとか、だいたい週3回ぐらいですね」
弁護人:「チケットがない時、お金は払えるのですか?」
Xさん:「長く通っているので、100円玉4枚と分かるみたいです」

(略: お金を管理しているのは誰かという確認)

弁護人:「今回の事件、最初は略式で、罰金20万円でしたね?」
Xさん:「はい」
弁護人:「どういう経緯で判決出るか分かっていたのですか?」
Xさん:「ほとんどおばと検事が話していました。10分も話せば、おばの状態が分かると思うので、そういう判決が出ると思っていました」
弁護人:「あなたは別室で待っていたのですね?」
Xさん:「はい」
弁護人:「略式命令の説明は受けましたか?」
Xさん:「記憶にないです」
弁護人:「本人は説明受けてましたか?」
Xさん:「分からないです」
弁護人:「判決は罰金20万円でしたけど、どう思いました?」
Xさん:「ショックでした。私が代わりに払うとしても大変な額で、どうやって彼女が払っていくのかと思って、ちょっと心配になりました」
弁護人:「ちょっと心配になっただけですか?」
Xさん:「本当に弱い老人の彼女を見て判決されたのか疑問に思いました。届いた郵便物すら確認できないのに、何の事情も理解できてないのに、そこまで責任とらないといけないのかと」

 そうか! 略式罰金だったのか!
 罰金刑なら、検察庁は被疑者の承諾をとって、略式手続を請求することができます。
 その後、名古屋簡裁による罰金20万円の略式命令があり、それを不服とした被告人側が14日以内に正式裁判を請求したのです。不服に思ったのは、被告人というよりも、Xさん(を含む親族)でしょうね。それを名古屋区検が受けて立っているという図式なのでしょう。
 どうしてこんな事件(当事者には重大ですが、公判が珍しいという意味で)が、ややこしく揉めているのか、徐々に事件の全貌が見えてきました。
 主尋問が続きます。

弁護人:「そこまで悪いことしてないと思っているのですか?」
Xさん:「被害者に迷惑かけたのは申し訳ないのですが」
弁護人:「被害者について警察からは何と言われましたか?」
Xさん:「ケガさせて謝りもしないので大変怒っていると」
弁護人:「それで被害者にどうしたんですか?」
Xさん:「謝りに行きました。おばは『家に来い』を『家で待て』と勘違いして来なかったため、私が一人で行きました」
弁護人:「行ってみてAさんはどういう様子でしたか?」
Xさん:「すぐにおばが謝らなかったことに怒っていて、『彼女は障害があって、ちょっと足りないので、怖くなってパニックになったと思います』と伝えました」
弁護人:「Nさんは怒られることが多かったのですか?」
Xさん:「父が厳格で、よく叱られていたので、男の人が怖いみたいです。特に大きい声出すと怖いみたいです」
弁護人:「Aさんは説明を理解できた様子でしたか?」
Xさん:「『そんなわけないだろう』と、『本人が来ないのは筋違い』だと言ってました」
弁護人:「その後、Nさん本人は謝ったのですか?」
Xさん:「その後、『道で会ったら謝りなさい』と言っていたら、会って謝ったみたいです」
弁護人:「Aさんはどういう様子だったと言ってましたか?」
Xさん:「『いいよ、いいよ』と言ってくれたそうです」
弁護人:「Aさんに治療費を払う予定だそうですが、いくら払うつもりですか?」
Xさん:「15,000円です」
弁護人:「Nさんが飼っていた犬はよく噛みつく犬ですか?」
Xさん:「いえ。どちらかというと気弱で、呼んでも逃げてしまうぐらいです」
弁護人:「証人が呼んでも逃げていきますか?」
Xさん:「はい。とくに車で近付くと怖いみたいです」
弁護人:「他の犬に近寄ることはありましたか?」
Xさん:「ないです」
弁護人:「本件を聞いてどう思いましたか?」
Xさん:「驚きました」
弁護人:「放し飼いしてましたか?」
Xさん:「してないです。家の中でもリードつないでいます」
弁護人:「被告人は腰が悪いようですが、散歩は大変ではないですか?」
Xさん:「身内の者が代わって散歩に連れて行きました」
弁護人:「犬のしつけについて証人から何か言ったことはありますか?」
Xさん:「私も、他の家におしっこしないようにとか、再三言ってました」
弁護人:「今回、噛みついてケガをさせてしまった他に、犬の登録していないということがありましたが、ご両親は犬の登録をしていたのですか?」
Xさん:「分かりません」
弁護人:「どういう経緯でこの犬を飼うことになったのですか?」
Xさん:「娘が、ペットショップで『里親になってくれ』となっていた犬を見て、『飼いたい』と希望しました」
弁護人:「どうしてNさんの家で飼うことになったのですか?」
Xさん:「私の家はペットを飼えないことになっていて、当時は父がまだ生きていたので、相談して飼ってもらうことにしました」
弁護人:「ペットショップで生後60日経った犬は登録しないといけないと言われませんでしたか?」
Xさん:「捨て犬だったので60日かどうか分からないみたいでした」
弁護人:「ペットショップから登録の説明はされませんでしたか?」
Xさん:「なかったと思います」
弁護人:「犬の名前は何ですか?」
Xさん:「クッキーです」
弁護人:「被告人はどう呼んでいますか?」
Xさん:「ポチ」
弁護人:「どうしてですか?」
Xさん:「前に飼っていた犬がポチだったので、習慣になっているのかもしれません」

(略)

弁護人:「被告人は本当の名前がクッキーだと分からないみたいですか?」
Xさん:「私たちの前ではクッキーと呼ぶけど、一人では『ポチ、ポチ』と呼んでしまうみたいです」
弁護人:「平成19年の注射はしましたか?」
Xさん:「私が誘って一緒に行きました」
弁護人:「一人ではできないのですか?」
Xさん:「時間の概念が分からないので、1年に1回が何のことだか、分からないと思います」
弁護人:「終わります」


 主尋問が終わりました。
 軽く整理してみましょう。これまでに分かったことから事件を想像してみます。

1.被告人Nさんの犬が、被害者Aさんに噛みつく(過失傷害事件発生)。
2.Aさんが怒る。
3.男性の大声が苦手なNさんは怖くなって逃げる。
4.Aさんは、謝罪なく逃げたNさんに、当然ながらとてつもなく腹を立てる。
5.Aさんは外科医Yさんの治療を受ける。
6.怒りのおさまらないAさんは警察に相談(警察が過失傷害を認知)。捜査開始(告訴受理)。
7.警察はNさんの取り調べを行う(過失傷害を検挙)。
8.保健所に問い合わせると、犬の登録、予防接種がされていないことが発覚(狂犬病予防法違反を認知、検挙)。
9.検察庁送致。検察がNさんの取り調べを行う。
10.検察は罰金刑だから略式手続でかまわないと判断。Nさんに同意の署名捺印を求める。Nさんは検察の指示に従って署名捺印する。
11.名古屋簡易裁判所で罰金20万円の略式命令。
12.Xさんら親族が《本当に弱い老人の彼女を見て判決されたのか》と不服を持つ。
13.Xさんら親族が手伝って14日以内に正式裁判を請求。
14.名古屋簡裁で正式裁判開始。激しく争う。昨年9月頃、ボンクラな傍聴マニア(私)に目を付けられる。


 だいたいこんな経緯だっただろうと思います。これほどこじれてしまったのは、Xさんら親族が、罰金20万円の略式命令に、不服を持ったことが大きかったようです。

 続いて検察官からの反対尋問が行われます。

検察官:「被告人が食堂の手伝いをしていたのは何年から何年までですか?」
Xさん:「20年ぐらいやってたかな」
検察官:「30年ぐらい手伝ってたんじゃないですか?」
Xさん:「そうですね。30年ぐらいかもしれません」
検察官:「手伝いの内容は何でしたか?」
Xさん:「簡単なことですね。『Nちゃん、そこのおかず取って』『行く』とか」
検察官:「あなたの家でかつて飼っていた犬ですがね、両親が飼ってたのですか?」
Xさん:「はい」
検察官:「両親はどこに住んでたんですか?」
Xさん:「その後引っ越したんです」

(略: 位置を確認する)

検察官:「引っ越しはどういう経緯でしたか?」
Xさん:「たぶん、手狭になったので、たまたま近所の家が開いたので、中古で父が買ったと聞いています」
検察官:「あなたが結婚した時点で犬はいましたか?」
Xさん:「いないです」
検察官:「あなたのお父さんお母さんが生きていた時、被告人は犬の世話を一所懸命やってたんですか?」
Xさん:「はい」
検察官:「犬の登録はお父さんお母さんがやってたんですか?」
Xさん:「私は覚えてないです。ただ、■■(地名)から、獣医さんが来ていたことは記憶あります」
検察官:「首輪に小判型のものが付いているのを見たことはないですか?」
Xさん:「覚えてないです。よその犬でもちゃんと見たことはないです」
検察官:「被告人は、昭和63年に判定受けておられるけど、その時一人で住んでたんじゃないですか?」
Xさん:「そうですね」
検察官:「自立しておられたんじゃないですか?」
Xさん:「洗濯も(Xさんの)ウチで、食事もウチでしてました」
検察官:「Y先生の書かれた証明書ね、『自立』と書かれているよ?」
Xさん:「自立ってどの程度か分からないですけど、食事作るとかはできないです」
検察官:「生理の手当は?」
Xさん:「はい!?」
検察官:「生理の手当」
Xさん:「セイリって?」
検察官:「生理ってあるでしょ? 女性には。一人で生理の手当ができてたみたいですね?」
Xさん:「母親が頑張って教えたんじゃないですか」


 わざわざ検察官が「生理の手当」を訊いたのは、普通に生活できていた、という立証かと思われます。
 知り合いの福祉関係者に話を聞いたところ、あくまでも一般論ですが、小さい頃に親と本人が一所懸命に訓練したことは、身に付く可能性があるようです。また、日常的に繰り返し行うことなら、ずっとできる可能性は高いようです。

 犬の手綱を放してしまった過失傷害に関しては、「生理の手当」が関係してくるかもしれません。しかし、犬の登録や予防接種は、突然いつもと違うことをするわけですから、「生理の手当」は関係ないと思われます。

検察官:「調書に間違いはありますか?」
Xさん:「『(警察に? 警察から?)連絡したのは2月末ぐらいですよね?』と言われたんですけど、1月末です。■■■に書いたので間違いありません」
検察官:「読み聞かせはされたんですよね?」
Xさん:「私は、自分の中で記憶が定かでなかったので、『そうかなあ』と思ったんですけど、後で■■■見たら違ってました」

(略: 具体的にどこが違うのか確認する)

検察官:「被告人は近所との付き合いをしていましたか?」
Xさん:「銭湯に行ったら『Nちゃん可愛がられてるよ』と言われました」

 ここで速記が交代しました。あわただしくノートパソコンを片付けました。この裁判では、どうやらノートパソコンで証言を打ち込んでいるようでした(地裁の否認事件ではカセットテープらしき録音をよく見かけます)。
 ちなみに、たいていの裁判では「記録は要旨のみでよろしいでしょうか?」という確認が行われます。どんな記録ができあがるのか、違いは何なのか、見たことがないので分かりませんが。

裁判官:「甲13号証に出てるんですけど、こちらが正しいんですか?」

 検察官は何か答えましたが、私にはさっぱり分かりませんでした。供述調書の細かい部分が争われているようです。

検察官:「被告人の近所の■■さんは付き合いあると供述してますけど?」
Xさん:「あるんですねえ。私あんまり近所付き合いしてないもんですから」
検察官:「■■さんの調書を示します」

 弁護人が異議を申し立てました。わけの分からないことで猛烈にもめました。私には、何をもめているのか、結論がどうなったのか、さっぱり分かりませんでした。


検察官:「被告人が、ゴミを代わりに出したとか、花に水をやったとか」
Xさん:「お名前は分かりませんが、そういうことしてるとは聞いたことがあります」
検察官:「回覧板なんかは回せるんですか?」
Xさん:「読めないものですから回ってこないこともあるようです」
検察官:「本件の犬ですが、あなたが被告人にあげたんですか?」
Xさん:「私が父に託したという」
検察官:「本件の犬ですよ」
Xさん:「はい」
検察官:「えっ!? 本件の犬をもらってきたとき、両親は生きておられたんですか?」
Xさん:「いえ、父は健在でした」
検察官:「あなたのお父さんは被告人と、あなたとは別の家に暮らしていた?」
Xさん:「はい」
検察官:「お父さんは何歳ぐらいでしたか?」
Xさん:「60歳ぐらいでした」
検察官:「お父さんは被告人の面倒を見れるほど元気でしたか?」
Xさん:「脳梗塞の後遺症ありましたので」
検察官:「被告人がお父さんの面倒をみていた?」
Xさん:「父が『湯を沸かせ』『お茶入れろ』と指示していました」
検察官:「『湯を沸かせ』ということは、被告人は火を使うことできたんですか?」
Xさん:「一人で火を使うのと、誰か見て監督する者がいるのとは違います」
検察官:「被告人が犬を飼うようになったのはいつですか?」
Xさん:「5〜6年前ですかね。覚えてないです」
検察官:「あなたの記憶は大丈夫?」
Xさん:「危ないですよね」
検察官:「お父さんが登録について教えてなかったんですか?」
Xさん:「覚えてないです」
検察官:「被告人はあなたに事件の説明はしましたか?」
Xさん:「怒られるのが怖かったのか、なかったです」
検察官:「後で聞き出したんですか?」
Xさん:「『クッキーが噛んだんだって?』『だーっと走って行っちゃった』とか、簡単なことですね」
検察官:「他には?」
Xさん:「ありません」
検察官:「その後、犬が噛みつかないように、どうやって監督していましたか?」
Xさん:「『外でブラッシングしてはダメ』『リードを短く持って』『他人様の家の前でおしっこしてはダメ』」
検察官:「今回判定を受けたのは何でなの?」
Xさん:「事件後におばの荷物を整理していたら、愛護手帳が出てきたけど、かなり古かったので取り直しました」
検察官:「裁判に備えてやったとかいうことはないの?」
Xさん:「現在の障害の程度を知りたいので」
検察官:「知ってどうなるというのですか?」
Xさん:「衰えてる」
検察官:「衰えてるかどうか分かりませんけど」
Xさん:「級が上がってますので」
検察官:「生活保護受けてる老人に罰金は酷と言いましたけど、被害者にはどう思っているのですか?」
Xさん:「申し訳ないとしか言えません」
検察官:「被告人は一人で謝りに行ったんですね?」
Xさん:「はい」
検察官:「ちゃんと謝れたんですか?」
Xさん:「口酸っぱくして叱りましたから」
検察官:「罰金あるという説明受けましたか?」
Xさん:「はい」
検察官:「金額が多いから驚いたのですか?」
Xさん:「本当に知的障害者ということを考えて判断してもらえたのかと。検事さんも普通の人と違うと分かりますよね?」
検察官:「いや、違うよ。ま、ここであなたと議論しても仕方ないですから、しませんけど。終わります」


 私は、妙に自信たっぷりな、検察官の口ぶりが気になりました。Nさんは、重度の知的障害者であるうえ、時間の概念が分かりませんので、狂犬病予防法違反については簡単に有罪といかないと思うのですが…。
 検察官の妙な自信が、芝居がかった胡散臭いものに思えてきました。

 もう一度だけ弁護人による尋問です。

弁護人:「被告人は、具体的な指示を与えれば、湯を沸かしたりお茶を入れたりできると、こういうことですね?」
Xさん:「はい」
弁護人:「被害者に悪いと思ったとか、言ったことはありますか?」
Xさん:「そういう判断力がないと思います」


 この後も少しだけ質問が続きましたが、メモできませんでした。証人尋問はこれで終了です。
 続いて、以前からもめていたらしい、証拠の整理が行われました。

裁判官:「弁護人請求の、Y先生作成の証明書の写しは、不同意になってますがどうされますか?」
弁護人:「内容は全て証人尋問で出しましたので、撤回いたします」
裁判官:「検察官、近くの住人の証言、弁護人が不同意しておりますが?」
検察官:「本人はかなりの高齢なので、証人尋問が体調的に難しいようなら、撤回いたします」
弁護人:「近所の人は事件と直接関係しないと思われますが」
裁判官:「関係ないとは言えないけど、不要とも言えるので………。検察官は必要とお考えですか?」
検察官:「はい。一人はかなり高齢、もう一人は被告人と同世代です」
裁判官:「今までの中で出てきてると思いますけど…、客観的な証言もいるのかなあ……。犬のことも出てきてる?」
検察官:「直接は出てきておりません。事件直後の言動も出ております」
裁判官:「裁判所としては、不要と断定できる理由がありませんので、聞かざるをえないですねえ」


 次回、検察官請求の証人2人の、証人尋問が行われることになりました。裁判官はNさんに証言台へ来るよう指示しました。
 Nさんは、証言台へ呼ばれたことに気付かず、弁護人と親族が教えました。その瞬間Nさんはニコーッと笑いました。かまってもらえると嬉しいようです。人生の大先輩にこのようなことを申し上げるのは失礼かもしれませんが、本当にかわいいおばあちゃんだと思いました。


 ところで、Nさんを略式手続にしたことについて、疑問があります。
第四百六十一条  簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
刑事訴訟法(昭和二十三年七月十日法律第百三十一号)

 本件は、狂犬病予防法違反、過失傷害で、どちらも罰金刑です。刑事訴訟法四百六十一条に該当します。
 問題はここからです。略式は、被疑者による「正式裁判の請求ができることもわかりましたが、略式でお願いします」という、同意が必要なのです。
第四百六十一条の二  検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
○2  被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。

 字が読めないらしいNさんは、どのようにして書面を作成したのでしょうか…? 検察庁で書面が用意されていて、どうにか署名だけできた、ということなのでしょうか。

 Nさんは現在行われている裁判について、「何かみんなが集まって、ゴチャゴチャ訊かれたということは、分かっているみたいです」(主治医Yさん)、としか理解できていないようです。
 私は、検察庁が略式手続の意味をどのように説明したのか、詳しく知りたいです。

 おそらく検察庁には、一般人でも理解の難しい略式手続と正式裁判について、中等度〜重度の知的障害者に理解させることができる人材がいると考えられます。
 お心当たりの方は、今すぐ論文を書いて、医療や福祉に役立ててください!

 では、正式裁判の請求は、どのように行うのでしょうか。実はまたまた書面が必要なのです。

第四百六十四条  略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があつた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない。

第四百六十五条  略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。
○2  正式裁判の請求は、略式命令をした裁判所に、書面でこれをしなければならない。正式裁判の請求があつたときは、裁判所は、速やかにその旨を検察官又は略式命令を受けた者に通知しなければならない。

 字の読めないNさんが正式裁判の請求を書面でおこなう可能性は低いでしょう。親族が、弁護士(?)あたりに相談して、書面を作成し、Nさんに署名をさせたのかと思われます。

 この日、検察側と弁護側は、白熱した審理を繰り広げました。その間、長椅子に座っているNさんは、意味が分かっているのか分かっていないのか、キョトンとした顔でおとなしくしていました。たまに、弁護人や親族と目があったり話しかけられたりすると、嬉しそうにニコーッと笑いました。

 対立しているのは、名古屋区検 vs. 被告人の親族、だと思いました。その関係はますますこじれていきそうでした。

◎今回分かったこと
・人様に教えていただいたことをブログに書く場合、念のため許可をいただいておくと、角が立たなくてすみます。
・略式手続の請求には被疑者の同意が必要です。被疑者には正式裁判を受ける権利があります。どちらが得なのか、よく考えて返事をしましょう。
・略式命令に不服な場合は14日以内に正式裁判を請求できます。略式に同意して後悔したら正式裁判を請求してください。
・飼い犬が他人様に噛みついたら一刻も早く謝りましょう。
・検察庁には中等度〜重度の知的障害者に、略式手続と正式裁判を理解させることが可能な、とても優秀な人材がいるようです。ぜひ、論文を書くなり、厚生労働省へ出向するなりして、希有な才能を世の中に役立てて下さい。

【参考文献】
「裁判中毒―傍聴歴25年の驚愕秘録」(今井亮一・角川ONEテーマ21)
法令データ提供システム/総務省行政管理局
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi
法務省
http://www.moj.go.jp/
政府統計の総合窓口(e-Stat)
http://www.e-stat.go.jp/
犯罪白書
http://hakusyo1.moj.go.jp/
posted by 絶坊主 at 22:19| Comment(4) | TrackBack(0) | 珍しい事件(裁判傍聴記) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

腰が痛いのは辛いものです。
私も14年間悩まされました。

私が考案した腰痛解消法をお試しください。
現在、日本で一番多く実践されるようになりました。

【3分腰痛解消法】で、検索すると見つかります。
腰をお大事に。
Posted by 腰痛アドバイザー at 2008年06月03日 23:15
腰痛アドバイザーさん、はじめまして。

3分で腰痛が解消するのですか!?
す、すごすぎます!!!

しかし、Nさんは重度の知的障害者で、文字が読めませんので、その検索ワードを打ち込むのは困難だと考えられます。
どうかNさんのために、数字やひらがなが読めない方でも分かる方法を考えてあげてください。

それにしても、慢性的な腰痛に悩む人々が多い中、たった3分で解消してしまうとは、画期的な方法ですね。素晴らしいです。

腰痛患者につぎ込まれる医療費を調べれば、3分腰痛解消法によって削減できる金額が、ズバリ分かりますね。
解散総選挙に備えて裸民党のマニフェストに使わせていただくかもしれません(^^)
Posted by 絶坊主 at 2008年06月05日 14:06
絶坊主 さま

こんにちは。

失礼いたします。

ラーメン待ってる間に腰痛解消とは。。。
とっても魅力的なお話ですね♪興味深々です。

1日が1440分だから、1日に480回も腰痛が解消するチャンスがあるのですね。

すげぇー

大きく広告なんてなんのその♪

どこまでも強気なアドバイザーさまですね☆
こういうのとっても心強いです。

マニフェストに期待しちゃっていいでしょうか?








Posted by まつたけ at 2008年06月05日 20:27
まつたけさま、こんにちは。
ご要望にお応えしてマニフェスト案を検討してみます。

《平成18年 社会医療診療行為別調査》(厚生労働省)で平成18年6月審査分の診療点数を調べてきました。

腰痛症及び坐骨神経痛は、
625,722,227点

総点数は、
159,717,478,839点

です。百分率を計算してみます。

625,722,227÷159,717,478,839×100=0.39(%)

わずか0.39%ですか(^_^;
いや、それでも医療費削減は急務ですから、確実に見込める点では、票につながる可能性を秘めています。

診療実日数ではどうでしょうか?

腰痛症及び坐骨神経痛は、
1,581,761日

総数は、
159,704,459日

です。百分率を計算してみます。

1,581,761÷159,704,459×100=0.99(%)

あれえ!? 診療実日数でも1%に満たないじゃないですか(^_^;)
でもでも、確実に1%ぐらいは病院の混雑が解消されますから、票に結びつく可能性を秘めています。

次に一日に何人の腰痛を解消できるのか計算してみます。
病院の診療時間を仮に午前中の4時間とします。

《平成18年 医療施設調査》(厚生労働省)によると外科の病院数は5,191件です。

《平成17年 患者調査》(厚生労働省)によると腰痛症及び坐骨神経痛の推定患者数は、
74,600人

外科と思われる傷病の推定患者数は、
1,292,500人

です。百分率を計算します。

74,600÷1,292,500×100=5.77(%)

午前中の診察時間をめいっぱい使用すると、

240×0.0577=13.848(分)

となります。

外科一件あたり一日の診察(4時間)で解消できる腰痛患者を求めます。

13.848÷3=4.616(人)

これを外科の病院数とかけ算します。

4.616×5,191=23961.656(人)

人数なので小数点以下は切り捨てます。

よって、3分間腰痛解消法を外科治療に取り入れた場合、最大で一日あたり23,961人の腰痛解消が見込まれます。

仮に傷病が完治しなかったとしても、腰痛は解消すると思われますので、痛みから救われます。
これは票に結びつきそうです。

パソコンのやりすぎで腰が疲れてきたので適度な運動をしてきます。
Posted by 絶坊主 at 2008年06月07日 15:17
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