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2008年05月08日

かわいいおばあちゃんめぐって大混乱! 狂犬病予防法ってナニ?(4)

 被告人は、かわいらしいおばあちゃんで、飼い犬の登録と狂犬病予防接種をしていなかった狂犬病予防法違反の罪と、その犬が近所の人にかみついてしまった過失傷害の罪に、それぞれ問われています。

過去の記事はこちら
http://chisai.seesaa.net/article/92142285.html
http://chisai.seesaa.net/article/92635932.html
http://chisai.seesaa.net/article/94009239.html

 ようやく結審となりました。検察側、弁護側は、どのような主張をするのでしょうか。果たして、かわいいおばあちゃんは、どのような最終陳述をおこなうのでしょうか。


【注意事項】
 この記事は、私が裁判傍聴で必死こいて書き殴ったメモを元に、なんとか記憶を辿って書いたものです。もしかしたら、実際に裁判で起こったことと、全然違うかもしれません。
 また、私に法律の知識はありません。
 偏った思いこみや思想が文章に紛れ込んでいるかもしれません。極力避けるように努力します。ご了承下さい。
 この記事が事件の真実を言い当てることなどございません。
 無いとは思いますが、無断転載はご遠慮下さい。引用は法律を守ってご自由にどうぞ。
 リンクはご自由にどうぞ。ただし、画像等への直リンクはおやめ下さい。
 登場人物のイニシャルは本名と無関係です。


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《かわいいおばあちゃんめぐって大混乱! 狂犬病予防法ってナニ?(4)》
【狂犬病予防法違反】【過失傷害】『審理』
名古屋簡易裁判所403号法廷
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆★登場人物★☆
Nさん(被告人。在宅。60代ぐらいの女性。小柄。やせ形)
弁護人(40代ぐらいの女性。小柄。陽気な印象)
検察官(50代ぐらいの男性。長身。声が高い)
裁判官(40代ぐらいの男性。四角い顔。キッチリ七三分け)
書記官(50代ぐらいの男性。やせ形)
Xさん(Nさんの親族)
Yさん(Nさんの主治医。外科の開業医)
Aさん(被害者)
Pさん(Nさんを取り調べた警察官)
クッキー(Nさんの飼い犬の正式名称)
ポチ(Nさんが飼い犬を呼ぶ時に使うあだ名)


裁判官:「今日は、論告求刑、弁論、結審の予定のようですが、証拠整理ついていないところを確認します。甲**号証■■■■さん、■■■■さんの、警察官に対する供述調書、弁護人が不同意しておりました。検察官、証人尋問は出廷されなかったので撤回されましたが、書証も撤回ということですか?」
検察官:「はい」

 検察官が証人申請した主旨は、(大ざっぱに言えば)Nさんがいかに自立した立派な生活をおくっているのかを立証するため、だったと思います。出廷しないから証人を撤回、書証も撤回とのことです。
 どっちでもいい証人を呼ぼうとしたのか、それとも証人が高齢だから諦めたのか…。なんだったのだろう…?

 私もよく分かっていないので自信がないのですが、刑事訴訟法では、供述調書は伝聞証拠(又聞き)にあたるため、基本的に証拠として使えないことになっているようです。
 証人が裁判官の前で話すというのが原則です。

 ただし、反対尋問を受けていれば(この場合は弁護人が証人にツッコミ入れれば)、証拠採用されます。そのために前々回の公判で、証人が呼ばれていたのだと思います。
 証人は出廷しませんでした。結局、弁護人が証人にツッコミ入れることができませんでしたので、供述調書は証拠として採用できないと考えられます。

 では、どうしていつも反対尋問なしで、供述調書が採用されているのでしょうか?
 それは簡単です。相手が「同意」=「反対尋問権を放棄」しているからです。
 ほとんどの裁判で反対尋問権が放棄されています。自白事件(被告人が罪を認めている)だからです。 被告人としては、ツッコミを入れる余地がなく、それよりも早く裁判を終わらせて、とっとと釈放してもらったほうがありがたいのです。このような証人尋問は、短くても30分、こじれた場合は数時間に及ぶこともあります。
 だから多くの刑事裁判で、弁護人は、被告人のために裁判が早く終わるよう、「同意」という選択をとっているようです。


◎検察官による論告求刑はおおむね以下の通りです。
■刑事責任能力について
 被告人は、
 平成19年の判定で、精神年齢5歳8か月、知能指数31、
 昭和64年の判定で、精神年齢6歳6か月、知能指数44、との結果が出ているが、
これらの判定は、福祉の援助をはかる目的で行われたものである。善悪の是非や刑事責任能力をはかるための判定ではない。
 判定員は、医師ではなく、公共団体職員である。刑事責任能力の証拠として到底用いることはできない。
 生活状況、犯罪の種類などを考慮して、判断するべきである。
 判定結果それ自体のみで刑事責任能力ないとする証拠に用いるわけにはいかない。

 姪のXによると、被告人は、犬の散歩を日課としており、寝起きや掃除等、自分でしている。被害者に対して、「(被告人は)一人で謝りに行っています」と、証言している。

 主治医Yによると、「待合室で会話している」、「生活1人でできる」などと証言している。以前病院に犬を連れてきたが、注意したところ、今は連れてきていない旨を証言している。
 本件の犬が被害者を噛んだ後しょんぼりしていた様子で、「うるさいオヤジに捕まった」と言っていた旨を証言している。

 ■■■■(人名)によると、


(ここで弁護人から異議)

弁護人:「異議あり。その書証は同意になってるんですか?」
検察官:「別の2人は不同意ですが、■■■■さんは同意です」
裁判官:「同意になってますよ」
弁護人:「間違えました」

(論告を再開)

 ■■■■によると、「母の看病してくれました」、「今も植木に水やりしてくれます」と供述している。

(情報元メモもれ。平成19年の判定書か?)によると、「■■■■学校卒業できず中退」、「生理の手当、自分でできる」、「中退後は仕事をしていた」、「10年前から仕事をしていない」との記述がある。

 乙2号証によると、
「狂犬病の注射をしないことは悪いことだと分かっておりましたが、面倒だと言い訳しようと思っていました」
と述べている。

 主治医のYは外科医で精神科医ではない。知的障害の程度について一般人と同じ程度しか認識していない。刑事責任能力の証拠にはならない。

 本件発覚後、被告人は自ら保健所に出向いて、登録、狂犬病の注射を済ませている。

 被告人は、犬の散歩、掃除、通院、他人の看病、生理の手当など、一般人と遜色ない生活を送っており、注意能力に多少の減退はあるものの、刑事責任能力ありと考えるものである。


■狂犬病予防法違反について

 姪のXは、「以前被告人と同居しており」、「犬がいなかったことはないくらい」、「獣医さんが来ていた記憶がある」と証言している。
 狂犬病予防法を知っていたが、娘が拾ってきたから、被告人に頼んだ。Xは被告人が狂犬病予防法を知っていたと分かっていた。
 被告人について、公判廷では、狂犬病予防法の義務の認識について、曖昧な供述をしている。しかし、調書について、警察に連絡した時期が1月か2月か不明であるというにとどまり、それ以外は正しいと証言していた。


 被告人自身、10年前から、周りで犬を飼っていた。シールから登録や注射が義務であることを知っていた。

 乙2号証では、
「10年ぐらい前から周りで犬を飼っていた。シールから登録が必要だと知っていた」
「登録、注射しないこと、悪いことだと分かっておりましたが、注意されたら『やり方よう分からんわ。面倒だ』と言い訳しようと思っておりました」
などと供述している。

 言い訳しようと考えていた。違法性認識ありと考えるのが妥当である。
 知らなかったとしても法の錯誤の問題である。判例では錯誤でも有罪となっている。


■過失傷害について

 被告人は、犬の引っ張る力が強く、引きずられることを知っていた。飛びついたりしないように注意していた。

第4回公判:
「逃げたことがあるので追いかけて鎖をはめ直した」

乙号証:
「よほど力強く握っていないと逃げられそう」

第5回公判:
「逃げないように強く握っていた」

 予見可能性は認められる。

乙?号証:
「人に飛びかからないように注意を払っていましたが、手綱を杭にくくるなど措置すべきでした。私に落ち度がありました」
「つい油断して左手で軽く持っていただけ…(略)…噛み付いてしまいました」
「家の前はよく犬が散歩に来ます。犬が強く引っ張ること分かっていたのです
が、つい油断して左手で緩く握って…」

警察官■■■■(Pさんか?):
「左手で緩く握っていたと言っていた。二重巻きとは言ってなかった。普通に手
を添えていたという認識だ」

姪Xの証言:
「一瞬のスキをついて逃げられたから仕方ないと思っているのでは?」

 輪っかを通して二重巻きにするなど、飼い犬による危害発生を認識していた。

 犬が飛びかかる予防をするのは当然。
 飼い主に予見し得ないとは言えないことは言うまでもない(分かりづらいですが「犬の飼い主は飛びかかることを予見できて当然だ」と言いたいのだと思います)
 飼い主は、畜犬の性質を考慮すれば、手の甲に巻く、杭につなぐなど、危険を防止する措置をとって当然である。
 被告人が手綱を左手で緩くもっていたのは明らかである。

 犬を連れていた被害者に飛びかかってケガを負わせた事件の判例がある。
名古屋高等裁判所 昭和36年7月20日 ?282号


■情状について
 10年以上注射を受けさせず通行人に傷害を負わせた。
 往来の多い路上での犯行であり公衆の安全を阻害した。公衆の衛生を阻害した。
 ペットと日常的に密着していた飼い主は狂犬病予防法の重要な義務がある。
 被告人は注射せずに他人と接触させた。被害者が「しかるべき処罰」と望むのは当然である。
 注射や登録について知っていたのに、保健所に連れて行くと「興奮して吠えるのではないか?」、「処分されるのではないか?」などと考え、義務を果たさなかった。
 言い訳を考えたうえでの犯行。規範意識は全くもって欠如している。
 畜犬の登録、衛生は重要である。被害者の生命にも影響しかねない犯行であった。被害者が処罰を望むのは当然である。

■求刑
 被告人を罰金20万円に処すのが相当である。

(論告終了)


 しつこく申し上げておりますが、Nさんが「狂犬病の注射をしないことは悪いことだと分かっておりましたが」とか、言うわけないです。あんまり笑わせないで下さいね。

 検察官としては、被告人は自立した生活を送っており、犬が人に飛びかかる予見は可能で、登録や予防接種が必要であったことも分かっていたため、刑事責任能力があるという主張です
 どの程度正しいのか分かりませんが、あれだけムキになっていたのだから、これぐらいの主張は当然でしょう。

 被害者のAさん、「しかるべき処罰」を希望しているとのことですが、事件から1年以上経った今でもそう思っているのか不明です。弁護人の主張を聞いてからでないと分かりません。

 ところで、私の隣には、スーツ姿の女性が座っていました。新聞記者でしょうか。求刑を聞くと同時に急いで法廷から出て行きました。
 弁論のほうが面白かったのに。もったいないなあ…。


◎弁護人による弁論はおおむね以下の通りです。

■被告人の責任能力の有無
 被告人は、生来的障害を持っている。69歳。
 経歴は、

姉の食堂手伝い→通所施設でハコ作り→生活保護

であり、職歴と言えるものはない。

 被告人は話が分からなくても適当に話を合わせてしまう性質がある。
 供述調書で法廷と違うことを言っているのは誘導によるものである。

 昭和**年から生活保護を受給している。姉の家で食事と入浴をしていた。

 現在の収入は障害年金と生活保護。月9万円程度。
 毎日銭湯に行けないほど厳しい生活をおくっている。

 1人で家賃を払えない。保護係に請求書を送付してもらって、保護係の職員に付き添ってもらって、払い込んでいる。

 火を使った料理ができない。
 生活のかなりの部分を姪が手伝っている。

 平成19年の判定では、精神年齢5歳8か月、知能指数31であった。
 検察官は刑事責任能力の有無判断に採用すべきではないと主張している。
 しかし、田中ビネー知能検査Xという、客観的な手法で、資格を持った公共団体職員が行っている。

 昭和64年の判定では精神科医と面談していた。医師が関わった判定と言えなくもない。
 昭和64年の判定、精神年齢6歳6か月、知能指数44であった。
 障害の程度が進んでいる。40代から60代になった。
 現在は重度の障害である。

 外科の主治医Yによると、数字に弱く、誕生日、今日が何月何日か分からない。
 文字の読み書きができない。「(Nさんの)みょうじなまえ」が自分を示していることは分かるが、文字ではなく、絵として認識しているに過ぎない。

 話が分からなくなると適当に返事をしてしまう傾向があり誘導に乗りやすい。公判廷でもそうであった。

 ポチは大きな犬ではない。お茶の間にあげて飼っている。

 親族は犬をクッキーと名付けている。
 被告人は犬をポチと呼んでいる。被告人は、「ポチ」とこの犬を呼んでいるのか、小さい犬全てが「ポチ」なのか、不明である。

 被告人は日常的に家の前でブラッシングをしていた。
 以前に犬が逃げたのは、家の扉が開いていて、勝手に逃げたものである。
 散歩では、他の犬に会うと、違う方向に強く引っ張って逃げた。もともと臆病な犬であった。

 事件までの間に、登録に関して、事前に役所や警察から、一切苦情がなかった。

 幸いにも被害者の傷は5日間で治った。完治後2週間経って告訴したことになる。被告人が知的障害者と知っていたら告訴しただろうか。

 姪のXはすぐに謝罪した。15,000円支払った。


(ここで検察官から異議)

検察官:「異議あり! 15,000円の領収書は提出されていない。弁論から削除願います」
弁護人:「X証言で出ている。必要あれば領収書用意します」
検察官:「X証言だけでは信用できない」
弁護人:「振込時のご利用明細なら今すぐに出せます」

(しばらく揉める)

検察官:「被害者に電話確認後、同意不同意を考慮いたします」

(弁論を再開)

 被告人自身もXにうながされて謝罪に行った。
 その後、被害者と道で会ったところ、「いいよ、いいよ」と言われた。

 捜査官が重度の知的障害を見逃さず、保護者に連絡していたら、事件は違った展開を見せていたのかもしれない。

 警察官(誰なのか不明)は証人尋問で、被告人の取り調べに関して、
「生年月日、住所を言い、的外れな答えはしておりませんでした」
と証言している。

 しかし、被告人は生年月日を1回も言えたことはない。

 5回も面談して気付かなかったとは捜査官としてあまりにも鈍感である。

 田中ビネー知能検査Xは判定に通常用いられているものである。
 刑事責任能力は、知能指数、他の障害、犯行の種類など、裁判所が総合的に判断するものである。
 一般的に、知能指数30前後は、心神喪失もしくは心神耗弱と判断されている。
 知能指数44でも心神喪失と判断されたことがある。


■狂犬病予防法違反について

 そもそも問題は略式ですませようとした捜査の不徹底にある。

 被告人は登録という抽象的なことを理解できない。
 実際に自分で行うのは不可能だった。あらかじめ連絡しておいた職員に手続きしてもらった。

 1年ごとに注射させるのは難しい。
 3日後の診察も分からない。年単位のものごとを理解するのは無理である。

 事件後の注射はXが助けて行った。Xは今後も助けると証言している。

 狂犬病予防法違反について、自分で理解できないことであるため、心神喪失となり刑事責任能力はない。


■過失傷害について

 普段の飼い犬は、よその犬に会うと、相手の犬とは違う方向に逃げる。
 急に他人に噛むことまでは予見不可能である。

 被告人の後方から被害者は歩いてきた。被告人は気付かなかった。

 犬は、被告人が中腰の状態のとき、急に走り出した。強く把持していても防ぐのは無理である。
 ましてや腰に持病を抱えている69歳である。
 このような状態で、後ろから来る通行人を予見するのは難しいので、知的障害のある被告人に刑事責任を問うのは酷である。
 無罪を主張する。

 検察官は、被告人の供述調書を引用しているが、その内容には大いに問題がある。

(弁論終了)


 被害者Aさんの被害感情はどうなっているのでしょうか?
 論告では「しかるべき処罰」というありきたりな言葉が述べられただけでした。

 弁護人は、Nさんが《被害者と道で会ったところ、「いいよ、いいよ」と言われた》と述べましたが、示談を成立させたわけではなく、15,000円の振り込みは事件から9ヵ月以上経って行われました(Xさん証人尋問より)。


裁判官:「検察官、弁護人請求の振込したというご利用明細について、どんな確認がいるんですか?」
検察官:「被害者が、被害弁償として、認識しているのかどうか」

(しばらく揉める)

検察官:「開示だけしておいて早急に同意不同意を返答いたします」
裁判官:「今日は最終陳述しないで近いところで期日を入れましょうか?」
弁護人:「振り込まれたかどうかのみを立証主旨といたしますので、受け取ったかどうか、円満解決したかどうかまでは立証いたしませんので、何とか今日同意いただけませんか?」
検察官:「…はい、いいでしょう」
裁判官:「では採用して取り調べます。弁護人、要旨の告知をお願いします」
弁護人:「弁9号証は■■■■(銀行)で振込をしたときのご利用明細です。立証主旨は被害者宛てに振込をしたという事実です」
書記官:「示談としてですか? 入金の目的は?」
弁護人:「振込があったという事実です」

裁判官:「被告人は証言台の前へ来て下さい」

 Nさんは、いつも通り、周りにうながされて、証言台へと向かいました。

裁判官:「これで審理を終了します」
Nさん:「ありがとうございます」
裁判官:「最後に何か言っておきたいことがあれば言ってください」
Nさん:「なぁい」


 なんて素敵な最終陳述なんでしょう!
 日本史上、これほどカワイイな最終陳述は、最初で最後に違いありません。
 本当にカワイイおばあちゃんです。もう、私の心は、おばあちゃんに奪われてしまいました。私は「萌えゴコロ窃盗罪」の追起訴をしたいぐらいです。

 ああ! すみません。またしても人生の大先輩に失礼を…。
 大変申し訳ございません。不適切な表現がありましたことをお詫びいたします。


 被告人のNさんは、この裁判について、「何かみんなが集まって、ゴチャゴチャ訊かれたということは、分かっている」(外科の主治医Yさん証人尋問より)ようですが、自分のどんな行為が罪に問われているのか、何が争点なのか、理解しているようには見えません。

 加害者のAさんは、論告で「しかるべき処罰」という処罰感情が読み上げられたにとどまり、どのようなお気持ちでいらっしゃるのか分かりません。
 幸いにもケガは全治5日ですみましたし、道でNさんに「いいよ、いいよ」と述べた(Xさん証人尋問)とのことですから、未だに怒っているとは考えにくいです。
 しかし、今のお気持ちが裁判に出てくることはなく、ましてや示談が成立したわけではありません。

 この裁判の特徴は、被告人はただいるだけで、被害者は放置されたままという、当事者不在だと思います。


 ところで、弁護人はとんでもない指摘をしています。

《 警察官(誰なのか不明)は証人尋問で、被告人の取り調べに関して、
「生年月日、住所を言い、的外れな答えはしておりませんでした」
と証言している。

 しかし、被告人は生年月日を1回も言えたことはない。》

 えぇー!?
 この裁判を追い掛けてきて少々のことでは驚かなくなった私でしたが、過去の公判でありえない証言が出ていたと知って、気を失わんばかりに驚きました。
 Nさんは時間の概念がほとんど分からないのです。それは主治医Yさんの証言で思い知らされました。証人尋問より再掲いたします。

弁護人:「指定した日に来ることはできるのですか?」
Yさん:「実はできなくて、今日もリハビリの予約してたけど、すっぽかしてしまって、困っておるところです。時間の概念が分からないみたいで、数字も読めない。口頭で言ってます。『明日の朝イチに来てね』とか」
弁護人:「日にちは分かりますか?」
Yさん:「明日は分かるけど、明後日は分からない。ましてや『来週の火曜日』は分からない」
弁護人:「今日は何日とは分かりますか?」
Yさん:「うーーーん、『Nちゃんの誕生日は?』と尋ねたら、『5日』と答えたんですが、正解ではないんです。今日が何日かは分からないです」

 指定した日時が分からない、明後日が分からない、自分の誕生日が分からない、今日が何日か分からない。この警察官は、そんなNさんから、生年月日を聞き出したそうです。
 警察は、時間の概念が苦手な知的障害者から生年月日を聞き出すという、特別な手法を持っているのでしょうか? それとも、この警察官だけが特別優秀なのでしょうか?

 供述調書は、捜査官が取り調べメモをもとに、要旨をまとめて、一人称で書き直したものです。
 これを、本人が供述したという形にするために、

被疑者に読み聞かせて、

署名押印させて、

《上記のとおり録取して読み聞かせたところ誤りのないことを申し立て署名押印した》などと記載して、取り調べを担当した捜査官の署名を書きます。

 公判を見てきた限りでは、Nさんが生年月日を言えたとは、どうしても信じられません。一般的に、多くの知的障害者は、時間の概念を理解することが苦手だと言われています。
 ましてや、「一」(はじめ)というお茶が分からないだとか、3日後の診察が分からないだとか、自分の誕生日を「5日」と間違えて答えただとか(外科の主治医Yさん証人尋問)、数字が苦手なエピソードに事欠かないNさんですから、生年月日を言えたら奇跡です。

 本当に生年月日を言えたのであれば、その取り調べテクニックを、ぜひ福祉に役立ててください。この警察官を今すぐ厚生労働省に出向させてください。警察官本人は、一日も早く論文を書いて、世の中に役立ててください。多くの知的障害者と家族、福祉の現場で働いてらっしゃる方々に、大きな希望を与えるでしょう。

 この警察官が、ウソを言っているか、覚えてないのに調書に合わせて証言しているのなら、それは単なる偽証罪です。刑事責任を負っていただくだけの話です。ウソを言った背景事情があるなら、警察庁をあげて調査して、国民に公表してください。

 しかし、警察官が本当に「生年月日、住所を言い」と思っていたとしたら、これは深刻です。警察官の記憶はどこかで変容していると考えられるからです。
 おそらく取り調べはこんな感じだったと思います。


捜査官:「Nさんの生年月日はいつですか?」
Nさん:「わからなぁい」
捜査官:「分からんわけないでしょ?」
Nさん:「5日」
捜査官:「5日じゃないがね。昭和**年**月**日じゃないの?」
Nさん:「うん」

 これは供述調書に載りません。こんな感じに記載されているようです。


供述調書
本籍 愛知県名古屋市■■区■■■■町****番地
住居 愛知県名古屋市■■区■■■■町*丁目****番地■■荘**号室
(電話 ***局***番)
職業 無職
氏名 N■■■■
昭和**年**月**日生(**歳)

 とくに本件では、上記の情報は、一問一答か雑談のような形で、聞き出されたはずです。Nさんがスラスラ言えたり、自分から紙に書くということは、可能性として排除していいと思います。


 この警察官について、記憶の変容が考えられる点は、3ヵ所あります。

1.取り調べメモを作成した時点
2.供述調書を作成した時点
3.被疑者に読み聞かせた時点

 1の取り調べメモは聞き出した内容だけを記入していると思います。したがって、「質問の側に昭和**年**月**日じゃないの?」と全ての情報があったとしても、メモには「昭和**年**月**日」とだけ書くのです。

 2の供述調書では、取り調べメモをもとに、氏名の下に、生年月日と年齢を記入します。

 3の読み聞かせでは、単なる基本的な情報として、犯罪に関する供述とともに、読み上げられます。この時点では、聞き出した方法について、一切の情報が残っていません。

 このように正式な書式で書面を作成すると、非常にもっともらしく見えてしまうことも手伝って、記憶のほうが引きずられるという現象が起きるのではないでしょうか。
 しかも、それを被疑者に読み聞かせて、異議はないという署名押印までさせるのです。

 一般論として、我々は、カレンダーに予定を記入するなどして、明日からの予定を思い出します。よほど記憶力に優れた方を除いて、そのような記録なしには、別の予定や人物との記憶が混ざってしまって、間違いが起こります。
 カレンダーを見た際、「明日は■■■■さんとお食事。**時**分に■■駅前で待ち合わせ」などと、口に出して確認と記憶をします。
 これは、捜査官が供述調書を作成し、読み聞かせて署名押印させるという行為に、よく似ていると思います。

 したがって、捜査官がどのように聞き出したのかという記憶は、供述調書で上書きされてしまう可能性が高いのではないでしょうか。

 捜査官にとって、生年月日が言えたか否かという点は、ささいなことだと考えられます。重要なのは、被疑者の行動が法に触れたのか否か、調書で何を立証したいのか、という点です。
 被疑者の生年月日の聞き出しかたは、犯罪事実に関する供述内容以上に、忘れやすいことだと思います。
 この警察官が記憶違いをしているのは、供述調書という正式書面を作成したことにより、被告人が言ったに違いないと思い込んでしまったという、記憶の上書きが原因ではないかと思いました。


 ところで、前々回の記事で前フリしていた点を検討してみましょう。犬の攻撃は何だったのかという話です。
↓こちらの下のほうで前フリしております↓

かわいいおばあちゃんめぐって大混乱! 狂犬病予防法ってナニ?(2)
http://chisai.seesaa.net/article/92635932.html

 これは転位攻撃の可能性が高そうです。

「『クッキーが噛んだんだって?』『だーっと走って行っちゃった』とか、簡単なことですね」(Xさん証人尋問)
《犬は、被告人が中腰の状態のとき、急に走り出した》(弁論)

 犬の転位攻撃は、突発的なもので、飼い主の対応は困難です。弁論にあった《強く把持していても防ぐのは無理である。ましてや腰に持病を抱えている69歳である》という主張は、決して強引なものではないと思います。


 次回はいよいよ判決です。
 判決のポイントは、

・時間の概念が分からないNさんは、生後60日(かな?)の犬の登録、年に一度の予防接種義務を果たさなかったことについて、刑事責任能力があるのか否か
・突発的な転位攻撃による犬のかみつきを、中等度〜重度の知的障害であり、腰に持病を抱えたNさんが、予見および予防できたのか否か
・取り調べた警察官の記憶が曖昧な供述調書が正しいのか否か
・情状酌量はどこまで認められるのか

というような点だろうと予想されます。


◎今回分かったこと
・証人不出廷によって書証の取り調べができなくなることがあります。
・ほとんどの被告人は「悪いことだと分かっておりましたが」って本当は言ってないんじゃないの?
・被告人や被害者が実質不在となっている裁判があります。
・捜査官は、供述調書の読み聞かせによって、取り調べ時の記憶が変わってしまう…?
・とはいえ捜査官は生年月日の聞き出し方までいちいち覚えてられないです。
・過失傷害は転位攻撃で起きたようです。
・Nさんから生年月日を聞き出した警察官は、厚労省に出向するなり、論文を書くなりして、希有な才能を社会に役立てて下さい。

【参考文献】
《新版 供述調書記載要領》(捜査実務研究会/立花書房)
《証言の心理学 記憶を信じる、記憶を疑う》(高木光太郎/中公新書)
《健康ライブラリー イラスト版 知的障害のことがよくわかる本》(有馬正高/講談社)
《あきらめないで! 必ず直せる愛犬のトラブル》(渡辺格/古銭正彦/新星出版社)
posted by 絶坊主 at 12:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 珍しい事件(裁判傍聴記) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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